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音を覚える

これまで業務で数多くの試聴検討会に参加しました。その時、試聴を繰り返すうちに、今まで聴いてきた結果に混乱する参加者に遭遇しました。音は時間の経過の中で変化するものです。図や文字の視覚情報のようには形では記憶に留められません。聴覚に入ってきた常に変化する音の情報を分類し言葉によるタグ付けして記憶する必要があります。オーディオ評論家の記述のように、低中高音、音場、音像、奥行き、透明感、開放感等々様々な表現方法が用いられます。聴いたことがない機器を言葉の表現から魅力や興味が感じられ試聴できる機会を得るまでに動機付けることが出来れば優れた評論と言えます。人に音を伝える言葉の表現を使わなければならない時は、評論家が用いた言葉を踏襲したほうがそれなりの感じになります。しかし、言葉に捕らえられ過ぎ自分の言葉を見失うと音の記憶が曖昧になります。

設計をしていると新製品の評価を頂くため評論家に新製品を持ち込むます。評論の礎を築かれAXIOM80からJBL4341をお使いだった故F.S氏、JBLパラゴンをお使いだった故C.I氏は残念ながらお話しを伺う機会がありませんでした。お仲間だった故K.Y 氏のサブシステムのJBLハークネスからのウキウキした再生音に驚きました。また試聴室に無造作に置かれているカメラ(コンタックス)やスケールモデルなど趣味の数々も思わず見とれてしまいました。JBL375システムとマッキントッシュを使い出したO.K氏のお宅もジプシーの踊りの置物やカエルの小物が大変魅力的です。当時、女子大の先生で多摩川にお住いの故M.T氏は故S.T氏がお使いだったG社のホーンユニットを使われ低音部に河川敷の地盤にウーファーを設置するなど話題がありました。サラウンドを追求されており試聴室の壁の向こうに音像を感じて驚きました。大森のH.S氏はPCM機器の開発に参加されたことがあり一月前に聞いていただいた試作機の細かい改良点を即座に指摘さる技術の裏付けに驚かされました。小中学校の先輩だったM.F氏も前に聞いた音からの変化を即座に言い当てるので驚かされます。(氏はアマチュア無線で高出力の高出力の送信機とお使いで、不幸なことに土地の高低差でタワーアンテナがこちらの部屋と同じ高さでビームが向くとMCヘッドアンプを経由して声が聞こえたこともありました。)また、FMチューナーで大変お世話になった故A.K氏は同業者(評論家)の信頼があり、A.K氏以外の評論家に聞いて頂き記事にする際に、A.K旦那が大丈夫と言ったから安心して評価できると言われました。この業界のネットワークに驚かされました。いずれにせよ皆様、小一時間の試聴の印象を間違えなく記憶されていることに驚かされました。

この方々のお話しをお聞きでき再生音を一緒に聞く機会があり、おぼろげながら想像できるようになりました。

自分自身では、評論家に聞いて頂き評価を頂き、それなりに対応する必要がありました。FMチューナーは放送を受信する機器です。頂いた評価を確認する時に同じ番組ではありませんので、評価されたキーワードをもとに今聞いている番組で何をするべきかを決めなくてはなりません。一緒に聞いた際に発せられた最初の一言とその時の再生音を同時に覚えることができたようで、回路に手を入れ、再度聞いていただき良い評価がいただけるようになりました。

そんなことではなく測定用の信号発生器にソース機器をつないで試聴すれば同じだろうと思う方も居ると思います。試聴法の一つとして考えられますが、受信機にとっては条件が良くなりすぎることと、測定用の信号発生機の音質が支配するためか、音の差がわからなくなります。やはり空間から飛来する電波を捉えないと本質的な音の差がわかりません。お陰で、試聴に際しソースに関わらず評価する方法が身につきました。評論家の音の記憶方法も漠然とですが理解できるようにまりました。

直感ひらめき領域は右脳が担当し、論理思考領域は左脳にあるという説があります。

音を記憶するにはまず論理思考領域で、頭の中に整理仕分けの小箱の棚が必要です。例えば低中高音と言う大区分けに豊かとか輝きとか様々な要素が組み合った複雑な棚を思い浮かべてください。音を聴いた印象でキーワードを書いた紙片を棚に投げ入れて行きます。その紙の入った小箱があたかもグラフのように見えてきます。その形は覚えることが可能です。勿論、最初からすべてを網羅した棚を作ることは出来ません。何回も試聴を繰り返し、最初は良い音悪い音と言う二種類から始まり、回数を重ねる毎に棚は姿を変えより細かい仕分けが出来るようになるとともに頑丈になり心の揺らぎや環境の変化の影響を受け難くなります。しかし、この方法だけでは長く記憶に留めておくことは困難です。分析的手法と直感ひらめき領域も併用します。聴いたときに思い出した風景や匂い肌触り等や、心の中に浮かんだ色彩が抽象画のように残ることもあります。何を思ったかは抽象的過ぎ、具体的に述べることは困難ですが、この印象がキーワードとなり、音の記憶が蘇ります。

そもそもこういった情景や感触などが思い浮かぶといったことは直感ひらめき領域で処理するもので、論理思考領域に持ち込もうとすると処理に時間がかかり過ぎ即オーバーフローし、何も残すことが出来ません。試聴で記憶が混乱するのは、直感やひらめきでの行動を好まない意識が引き起こすのではと想像します。試聴と言う緊張を伴う場面で、より多くの情報を収集し、より正確かつ論理的に音を覚えようとする意識により引き起こされるだけで、日常生活で音を覚えられないと言うことは無いと思います。言い方を変えれば試聴時に音を覚えられると言うことは論理的思考より直感やひらめきに頼ると言う弱点も持っています。そのため音を覚える際に独りよがりになったり、感情の揺らぎで影響を受けますので、常に音に対する校正をかけると言う意味で幅広く試聴を繰り返したり演奏会に出かけたり、揺らぎの幅を抑える努力や訓練は欠かせません。さらには試聴後に覚えた音の分析精査を行い独りよがりの部分や揺らぎの影響を取り除いて記憶に留める努力も必要です。性向が論理を重んじると言うことで、決して資質について言及するつもりはありませんので誤解しないようお願いします。くれぐれも面白おかしく曲解や拡大解釈しないで下さい。

また、こういった人は瞬時切り替えによる比較試聴を好む傾向を持つようです。瞬時切り替えであれば、音を覚えられなくても比較が出来ると考えるからでしょう。しかし、微妙な音の違いの世界では瞬時切り替えをすると余計に違いが分からなくなると言う罠に嵌ります。確かに1960年代頃までは、技術や素材が十分ではなく、切り替え機を入れようが入れまいがその機器の個性的な音色は残りましたので、瞬時切り替えをすることに異議を唱える人はほんの僅かだったと思われます。しかし、1970年代以降の進化で機器のレベルが上がった故に個性の差は少なくなり、なまじ瞬時切り替えをすると違いが分からなくなりました。1980年代後半まで瞬時切り替え試聴を主張していた「科学的で客観的評価」を目指しているドイツの雑誌社もCDの普及により、この方法が適さないことを理解し、使わなくなりました。編集者が試聴をしますので音を覚えられる若しくは覚えようとする人が主導権を握り徐々にメンバーが替わりました。

いわゆるABX法で結果を残せているのは、放送諸元を決めるとか圧縮フォーマットの評価などに限られます。瞬時切り替えは、元の品位があり、それより原理的に劣る品位に差が無いことを確認する場合のみ有効と言えます。元の品位より原理的に優れた品位の優位性を確認しようとしても差が無いという結果しか残せないでしょう。有意差がないという結論を導き出す手法と言えます。ABX法の特徴を理解せず「科学的で客観的」と盲信し有意差がない、ゆえに音が違うということはなく思い込みだと結論づけることは考え直すべきと考えます。

音を覚える方法は人それぞれですが、注意深く経験を重ねることで心の揺らぎや環境の変化の影響を受け難くなり、自分に欲する音に向かってオーディオを楽しむことができると思います。

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