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MPX 5

サンプリングホールドMPXというものも存在しました。先に述べたように38kHzで変調された波形の頂点にオーディオ成分が存在することから、頂点を取り込み次の頂点が来るまでホールドさせ階段状の波形を得る方法です。動作を示します。
上段は復調前のL信号のみのコンポジット信号(パイロット信号は省略)、二段目はサンプリングパルス、三段目はLの出力、四段目はRの出力です。

理論上は無限大のセパレーションを得ることが可能で、方形波復調器の原理的に13dBのセパレーションを打ち消しで改善するより理にかなった方式です。また、各々の波高値の最大もしくは最小を取り込んでいますのでS/Nが優れているという特徴もあり、スルーレートの優れたアンプをサンプリングホールドの受けに採用すれば、低歪率の優れた性能が得られます。しかし、方形波を用いたステレオ復調器でも述べました隣接局の干渉や妨害電波やマルチパス歪などにより53kHzより高い周波数成分が問題となります。方形波の場合、奇数次高調波に被った成分が可聴帯域に変換され雑音となります。パルスのように非対称の波形ですと、奇数次だけでなく偶数次の高調波も存在します。妨害に弱くなります。

 38kHzの二倍は76kHzです。日本では使われていませんがUSAではSCAと呼ばれる多重成分が67kHzに存在し、9kHzのバーデーノイズを発生します。このため53kHz以上の成分を監視し、SCAのような成分が存在した場合ローパスフィルターを挿入し高い周波数成分が侵入しないようにします。

しかし、53kHzに近い遮断周波数を持ちますと位相(群遅延)の平坦性が損なわれ、高いセパレーションが維持できなくなります。せっかく原理的に優れた方式を用いても従来の方形波ステレオ復調器に対しての優位性が損なわれてしまいます。

このタイプのサンプリングホールドMOXはKT-9900やL-02Tに使われました。

希望しない高い周波数が可聴帯域に変換されバーデーノイズが発生する問題を解決するため、76kHzで動作する復調器により、ノイズだけを復調し、逆相にして打ち消す方法がKT-1000, KT1100, KT2200, L-03Tに採用されました。この技術にサンプリングホールドMPXの優れた特徴を損なうことがなくなりました。おそらく同じ様にノイズ成分を抽出し打消しを用いたウォリッシュ関数MPXとほぼ同じか早い時期でした。上段はLと-Rで変調したコンポジット信号と90度位相をずらした76kHzのサンプリングパルスです。

上段はLと-Rで変調したコンポジット信号と90度位相をずらした76kHzのサンプリングパルスです。コンポジット信号のゼロクロスをサンプリングしますので下段に示すよう出力はありません。